乗法定理

条件付確率の定義である $\eqref{zyoukentukikakuritu2}$ の分母を払うと

\[P(A\cap{B})=P(A)P_A(B)\]

が成り立つ.これを確率の乗法定理(multiplication theorem)という.

乗法定理

ある試行における事象を $A,B$ とするとき

\[P(A\cap{B})=P(A)P_A(B)\]

が成り立つ.

吹き出し無題

分母を払っただけで,「定理」というのはおかしい気がするかもしれないが,この式には,「条件付確率での $\eqref{zyoukentukikakuritu2}$ の $\frac{n(A\cap{B})}{n(A)}$ で簡単に条件付確率 $P_A(B)$ が求まるときには,逆にこれを利用して $P(A\cap{B})$ が求められますよ」という意味が込められている.

先程の例でいうなら,スペードのエースを引く確率 $P(A\cap{B})$ を求めるのに, まずスペードを引く確率 $P(A)=\frac{3}{7}$ に,スペードを引いた条件の下でそれがエースである確率 $P_A(B)=\frac{1}{3}$ を かけて

\[P(A\cap{B})=\frac{3}{7}\times\frac{1}{3}=\frac{1}{7}\]

とすればよいことをいっている.

暗記条件付確率と乗法定理~その1~

5本のうち2本が当りのくじがあり,そこから1本ずつくじを引く.

$A$ :「1回目のくじ引きで当りが出る」

$B$ :「2回目のくじ引きで当りが出る」

という事象 $A,B$ を考える.このとき,積事象 $A\cap{B}$ つまり

$A\cap{B}$ :「1回目と2回目のくじ引きで連続して当りが出る」

という事象の確率 $P(A\cap{B})$ を以下の2通りで求めよ.

  1. 標本空間を連続して2回を引いたときのくじの組合せとして $P(A\cap{B})$ を求めよ.
  2. 乗法定理 $P(A\cap{B})=P(A)P_A(B)$ を利用して求めよ.

  1. 5本のくじから連続して2本くじを引くときの組合せは $_{5}\mathrm{C}_{2}$ 通りあり,これは同様に確からしい.このうち,2本とも当りであるのは1通りであるから

    $\blacktriangle$ 5本のくじに番号をつけると,2本のくじ引きの組合せは①②,①③,①④,①⑤,②③,②④,②⑤,③④, ③⑤,④⑤ の $_{5}\mathrm{C}_{2}$ 通りある.①と②を当りくじとすれば,連続して2回当るのは①②の場合である.

    \[P(A\cap{B})=\frac{1}{_{5}\mathrm{C}_{2}}=\boldsymbol{\frac{1}{10}}\]

    となる.

  2. $P(A)$ つまり,1回目のくじ引きで当る確率は
  3. \[P(A)=\frac{2}{5}\]

    $P_A(B)$ つまり,1回目のくじ引きで当った条件の下,2回目のくじ引きで当る確率は

    \[P_A(B)=\frac{n(A\cap{B})}{n(A)}=\frac{1}{4}\]

    よって,乗法定理より

    \begin{align} P(A\cap{B})&=P(A)P_A(B)\\ &=\frac{2}{5}\times\frac{1}{4}=\boldsymbol{\frac{1}{10}} \end{align}

    となる.

条件付確率と乗法定理~その2~

4本の当りくじを含む10本のくじがある. 甲,乙がこの順にこのくじを1本ずつ引く. ただし,引いたくじはもとに戻さない. このとき次の問に答えよ.

  1. 甲が当ったという条件の下で,乙が当る確率を求めよ.
  2. 甲が当り,乙も当る確率を求めよ.
  3. 乙の当る確率を求めよ.

事象 $A,B$ を

$A$ :「甲が当る」

$B$ :「乙が当る」

とおく.

  1. 甲が当った状況では,くじは9本残っていて,その中に当りくじは3本あるから
  2. \[P_A(B)=\frac{3}{9}=\boldsymbol{\frac{1}{3}}\]

    $\blacktriangleleft$ 条件付確率

  3. 求める確率は$P(A\cap{B})$ である.
  4. \begin{align} P(A\cap{B})&=P(A)\cdot P_A(B)\\ &=\frac{4}{10}\cdot\frac{1}{3}=\boldsymbol{\frac{2}{15}} \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 乗法定理

  5. 甲が当り,乙が当るのは2. より $\dfrac{2}{15}$ である.また,甲がはずれて,乙が当るのは \begin{align} P(\overline{A}\cap{B})&=P(\overline{A})\cdot P_{\overline{A}}(B)\\ &=\frac{6}{10}\cdot\frac{4}{9}=\frac{4}{15} \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 乗法定理

    よって, $\dfrac{2}{15}+\dfrac{4}{15}=\boldsymbol{\dfrac{2}{5}}$ となる.

    《別解:標本空間を乙の引くくじにとる》

    乙の引きうるくじは10通りあり,これらは同様に確からしい. このうち当りくじは4本あるので,乙が当りくじを引く確率は

    \[\frac{4}{10}=\boldsymbol{\frac{2}{5}}\]