加法定理と排反事象について

加法定理

説明文

説明文

ある試行の標本空間 $U$ と,事象 $A,B$ について考える.

事象 $A,B$ に包含と排除の原理を用いると

\[n(A\cup{B})=n(A)+n(B)-n(A\cap{B})\]

が成り立つ.この両辺を標本空間 $U$ の根元事象の個数 $n(U)$ で割ると

\[\frac{n(A\cup{B})}{n(U)}=\frac{n(A)}{n(U)}+\frac{n(B)}{n(U)}-\frac{n(A\cap{B})}{n(U)}\] \begin{align} \therefore\ P(A\cup{B})=&P(A)+P(B)\\ &\ -P(A\cap{B})\tag{1}\label{kahouteiri} \end{align}

が成り立つ.

この $\eqref{kahouteiri}$ のことを,確率の加法定理(addition theorem)という.

加法定理

ある試行における事象 $A,B$ について

\[P(A\cup{B})=P(A)+P(B)-P(A\cap{B})\]

が成り立つ.

吹き出し無題

$P(A\cup{B})$ を求めるのに, $P(A)$ と $P(B)$ を加えたのでは, $P(A\cap{B})$ を2回加えたことになる.そこで,余分な1回分の $P(A\cap{B})$ を引くのだと考えると覚えやすい.イメージは下の図のようになる.

加法定理

2個のさいころ $A,B$ を同時に投げるとする. さいころ $A$ で3の目が出るか,またはさいころ $B$ で3の目が出る確率を求めよ.

$A$ :「 $A$ のさいころで3の目が出る」

$B$ :「 $B$ のさいころで3の目が出る」

とすると,求める確率は $P(A\cup{B})$ である.

いま, $P(A),P(B)$ は

\[P(A)=P(B)=\frac{1}{6}\]

である.

また,2つのさいころの目の出方は $6^2$ 通りあり, このうちともに3の目となるのは1通りであるから, $P(A\cap B)$ は

\[P(A\cap B)=\frac{1}{36}\]

となる.

以上より

\begin{align} P(A\cup B)&=P(A)+P(B)-P(A\cap B)\\ &=\frac{1}{6}+\frac{1}{6}-\frac{1}{36}=\boldsymbol{\frac{11}{36}} \end{align}
$\blacktriangleleft$ 加法定理

排反事象

説明文

説明文

さいころを1回投げる試行において,偶数の目が出る事象 $A=\{2,4,6\}$ と,奇数の目が出る事象 $B=\{1,3,5\}$ は同時に起こることがない.別のいいかたをすれば,同時に起こらない事象の積事象は,次のように空事象になる.

\[A\cap{B}=\{2,4,6\}\cap\{1,3,5\}=\emptyset\]

一般に,2つの事象 $A,B$ が同時に起こることがないとき, $A$ と $B$ は互いに排反はいはん(exclusive)である,または,排反事象(exclusive event)であるという.このとき, $A$ と $B$ の積事象は空事象である.

\[A\cap{B}=\emptyset\]

排反事象の加法定理

事象 $A,B$ において, $A$ と $B$ が同時に起こらないとき,すなわち

\[A\cap{B}=\emptyset\]

が成り立つとき, $A$ と $B$ は互いに排反であるという.

また,このとき $P(A\cap{B})=0$ であるから,加法定理より

\[P(A\cup{B})=P(A)+P(B)\]

が成り立つ.

3つ以上の事象でも,どの2つも互いに排反であるとき,それらの事象は排反であるという.

排反事象~その1~

ジョーカーを含まない52枚のトランプの中から1枚のカードを引く.

事象 $A,B,C,D$ を

$A$ : $\diamondsuit$ のカードを引く $\qquad B$ : $\clubsuit$ のカードを引く

$C$ : 3のカードを引く $\qquad D$ : 10以上のカードを引く

とする.次のうち,排反事象となるものをすべて選べ.

  1. $A$ と $B$
  2. $B$ と $C$
  3. $C$ と $D$
  4. $D$ と $A$

  1. $\diamondsuit$ であり, $\clubsuit$ であるトランプ存在しない,つまり同時に起こりえないので, $A$ と $B$ は排反である.
  2. $\clubsuit$ であり,3であるカードは存在する( $\clubsuit$ の3),つまり同時に起こりえるので, $B$ と $C$ は排反ではない.
  3. 3であり,10以上であるカードは存在しない,つまり同時に起こりえないので, $C$ と $D$ は排反である.
  4. 10以上であり, $\diamondsuit$ であるカードは存在する(例えば $\diamondsuit$ の11),つまり同時に起こりえるので, $D$ と $A$ は排反ではない.

以上より,排反事象となるのは1. と3. である.

排反事象~その2~

10本のくじの中に当りくじが3本ある.この中から4本のくじを同時に引くとき, 少なくとも2本の当りくじを引く確率を求めよ.

少なくとも2本の当りくじを引くのは,2本の当りくじを引く場合と,3本の当りくじを引く場合があり,

これらは排反な事象である.

まず,10本のくじの中から4本のくじを引く組合せの $_{10}\mathrm{C}_{4}=210$ 通りは,どれも同様に確からしい.

このうち,2本の当りくじと2本のはずれくじを引く場合は

$_{3}\mathrm{C}_{2}\cdot\ _{7}\mathrm{C}_{2}=63$ 通り

あり,3本の当りくじと1本のはずれくじを引く場合は

$_{3}\mathrm{C}_{3}\cdot\ _{7}\mathrm{C}_{1}=7$ 通り

ある.

よって,求める確率は

\[\frac{63}{210}+\frac{7}{210}=\boldsymbol{\frac{1}{3}}\]