極限

この節では、瞬間の速度で学んだ考え方を、関数を利用することにより、より一般的に見ていくことにしよう。

極限の定義

極限の定義について

極限の定義

関数 $f(x)$ において、$x$ が $a$ と異なる値をとりながら $a$ に限りなく近づくとき、$f(x)$ が定数αアルファに限りなく近づくならば \[\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)=\alpha\] または \[f(x)\to\alpha~(x\to{a})\] と書き、この値 $\alpha$ のことを、$x{\to}a$ のときの $f(x)$ の極限値 (limit value) という。

また、$f(x)$ は限りなく $\alpha$ に近づくという意味で
$x\to{a}$ のとき、$f(x)$ は $\alpha$ に収束 (convergence)する
ということもある。

極限の考え方の基本~例1~

ここで、例として $f(x)=2x+1$ において $\displaystyle\lim_{x\to1}f(x)$ がいくつになるのか考えてみよう。

たとえば、$x$ を $0.9$ からスタートして、$0.99,0.999,0.9999,\cdots$ と $1$ に近づけていくと \begin{align} &f(0.9)=2\times0.9+1=2.8\\ &f(0.99)=2\times0.99+1=2.98\\ &f(0.999)=2\times0.999+1=2.998\\ &f(0.9999)=2\times0.9999+1=2.9998 \end{align} と計算できるので、次の表のようにまとめられる。

$x$$0.9$$0.99$$0.999$$0.9999$$\cdots$
$f(x)$$2.8$$2.98$$2.998$$2.9998$$\cdots$
この表を右に続けていく、つまり $x$ を $1$ に近づけていくと、$f(x)$ の値は $3$ に近づいていくことがわかる。

また、$x$ を $1.5$ からスタートして、$1.25,1.125,1.0625,\cdots$ と、距離を半分ずつつめながら $1$ に近づけていくと \begin{align} &f(1.5)=2\times1.5+1=4\\ &f(1.25)=2\times1.25+1=3.5\\ &f(1.125)=2\times1.125+1=3.25\\ &f(1.0625)=2\times1.0625+1=3.125 \end{align} と計算できるので、次の表のようにまとめられる。

$x$$1.5$$1.25$$1.125$$1.0625$$\cdots$
$f(x)$$4$$3.5$$3.25$$3.125$$\cdots$
この表からも、$x$ を $1$ に近づけると、$f(x)$ は $3$ に近づくことがわかる。

以上2つの例からわかるように $\displaystyle\lim_{x\to1}f(x)=3$ であるといえる。

この結果は、図の $y=f(x)$ のグラフから明らかであろう。

また、ここで $f(1)=3$ であるから、結果として \[\displaystyle\lim_{x\to1}f(x)=f(1)\] となっていることがわかる。

(注)

一般に、この $f(x)=2x+1$ のように、$y=f(x)$ のグラフが $x=a$ で途切れていないとき、$\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)$ の値は \[\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)=f(a)\tag{1}\label{kyokugennokangaekatanokihonrei1}\] となる。このことを知っていれば、上で調べたようにわざわざ表を作って考察しなくても、すぐに極限値を求めることができる。

極限の考え方
極限の考え方

しかし、次の例のように、関数 $y=f(x)$ のグラフの形がすぐにはわからないようなときには、グラフが途切れている可能性が あるので、極限値を求めるのに注意を要する。

極限の考え方の基本~例2~

では、その例として、$g(x)=\dfrac{x^2-1}{x-1}$ において $\displaystyle\lim_{x\to1}~g(x)$ がいくつになるのか考えてみよう。

たとえば $x$ を $0.9$ からスタートして、$0.99,0.999,0.9999,\cdots$ と $1$ に近づけていくと \begin{align} g(0.9)&=\dfrac{0.9^2-1}{0.9-1}\\ &=\dfrac{(0.9-1)(0.9+1)}{0.9-1}=1.9\\ g(0.99)&=\dfrac{0.99^2-1}{0.99-1}\\ &=\dfrac{(0.99-1)(0.99+1)}{0.99-1}=1.99\\ g(0.999)&=\dfrac{0.999^2-1}{0.999-1}\\ &=\dfrac{(0.999-1)(0.999+1)}{0.999-1}\\ &=1.999\\ g(0.9999)&=\dfrac{0.9999^2-1}{0.9999-1}\\ &=\dfrac{(0.9999-1)(0.9999+1)}{0.9999-1}\\ &=1.9999 \end{align} と計算できるので、次の表のようにまとめられる。

$x$$0.9$$0.99$$0.999$$0.9999$$\cdots$
$f(x)$$1.9$$1.99$$1.999$$1.9999$$\cdots$
この表を右に続けていく、つまり $x$ を $1$ に近づけていくと、$g(x)$ の値は $2$ に近づいていくことがわかる。

また、$x$ を $1.5$ からスタートして、$1.25,1.125,1.0625,\cdots$ と、距離を半分ずつつめながら $1$ に近づけていくと \begin{align} g(1.5)&=\dfrac{1.5^2-1}{1.5-1}\\ &=\dfrac{(1.5-1)(1.5+1)}{1.5-1}=2.5\\ g(1.25)&=\dfrac{1.25^2-1}{1.25-1}\\ &=\dfrac{(1.25-1)(1.25+1)}{1.25-1}=2.25\\ g(1.125)&=\dfrac{1.125^2-1}{1.125-1}\\ &=\dfrac{(1.125-1)(1.125+1)}{1.125-1}\\ &=2.125\\ g(1.0625)&=\dfrac{1.0625^2-1}{1.0625-1}\\ &=\dfrac{(1.0625-1)(1.0625+1)}{1.0625-1}\\ &=2.0625\\ &\qquad\vdots \end{align} と計算できるので、次の表のようにまとめられる。

$x$$1.5$$1.25$$1.125$$1.0625$$\cdots$
$f(x)$$2.5$$2.25$$2.125$$2.0625$$\cdots$
この表からも、$x$ を $1$ に近づけると、$g(x)$ は $2$ に近づくことがわかる。つまり \[\lim_{x\to1}~g(x)=2\] であるといえる。

上の2つの計算では、$g(x)$ の $x$ に値を代入してから約分して計算したが、$x\neq1$ であるかぎり \[g(x)=\dfrac{x^2-1}{x-1}=\dfrac{(x-1)(x+1)}{x-1}=x+1\] であるから、このように先に約分してから $x$ に値を代入する方が楽になる。

いま、$g(x)$ の値は $x=1$ では(分母が $0$ になるので)定義されないが、$\displaystyle\lim_{x\to1}g(x)$ は $2$ として存在する、つまり \[\underbrace{\displaystyle\lim_{x\to1}g(x)}_{この値は2}\neq\underbrace{g(1)}_{存在してない!}\] であることに注意しよう。

極限の考え方
極限の考え方

このことを、グラフで考えてみる。$g(x)$ は $x\neq1$ で \[g(x)=x+1\] と書けるので、$y=g(x)$ のグラフは図のようになり、$x=a$ で $g(x)$ が存在しなくても、 $\displaystyle\lim_{x\to{a}}g(x)$ は存在することがある。

極限の計算法則

極限の計算法則について

さきほどの2つの例より \[f(x)=2x+1のとき\displaystyle\lim_{x\to1}f(x)=3\] \[g(x)=\dfrac{x^2-1}{x-1}のとき\displaystyle\lim_{x\to1}g(x)=2\] であった。いま、この2つの関数を足し合わせた関数 $h(x)=f(x)+g(x)=2x+1+\dfrac{x^2-1}{x-1}$ の極限 $\displaystyle\lim_{x\to1}h(x)$ は、$x\neq1$ のとき \begin{align} f(x)+g(x)&=2x+1+\dfrac{x^2-1}{x-1}\\ &=2x+1+\dfrac{(x-1)(x+1)}{x-1}\\ &=2x+1+x+1\\ &=3x+2 \end{align} であるから \begin{align} \displaystyle\lim_{x\to1}h(x)&=\displaystyle\lim_{x\to1}\left\{f(x)+g(x)\right\}\\ &=\displaystyle\lim_{x\to1}(3x+2)=5 \end{align} となる。これは、極限をとったあと足し合わせた \[\displaystyle\lim_{x\to1}f(x)+\displaystyle\lim_{x\to1}g(x)=3+2=5\] という結果と等しくなる。つまり \[\displaystyle\lim_{x\to1}\{f(x)+g(x)\}=\displaystyle\lim_{x\to1}f(x)+\displaystyle\lim_{x\to1}g(x)\] が成り立っている。簡単にいえば、和の極限値は極限値の和と等しいということである。

和に限らず、一般に極限値の計算において、次のようなことがいえる。

極限の計算法則

$\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)$、$\displaystyle\lim_{x\to{a}}g(x)$ が存在するとき

  1. $\displaystyle\lim_{x\to{a}}\{f(x)\pm g(x)\}=\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)\pm\displaystyle\lim_{x\to{a}}g(x)$ (複合同順)
  2. $\displaystyle\lim_{x\to{a}}\left\{kf(x)\right\}=k\cdot\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)$
    ただし、$k$ は定数とする。
  3. $\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)g(x)=\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)\cdot\displaystyle\lim_{x\to{a}}g(x)$
  4. $\displaystyle\lim_{x\to{a}}\dfrac{f(x)}{g(x)}=\dfrac{\displaystyle\lim_{x\to{a}}f(x)}{\displaystyle\lim_{x\to{a}}g(x)}$
    ただし、$\displaystyle\lim_{x\to{a}}g(x)\neq0$ とする。
が成立する。

この定理を証明するためには、極限の定義をもっと厳密なものにする必要がある。厳密な極限の議論はFTEXT 数学IIIで行う。