恒等式とは何か

式 $x^2 = − x + 2$ は $x = 1$ または $x = − 2$ のとき成り立つ等式である. このように,特別な値を入れたときだけ成り立つ等式を方程式(equation)という.

これに対して,式 $x^2 − x = x(x − 1)$ のように, $x$ にどのような値を代入しても成り立つ等式のことを 恒等式こうとうしき(identity)である.

値を代入する文字,すなわち変数は1つとは限らない. たとえば, $(x − y)(x + y) = x^2 − y^2$ は, $x,y$ にどのような値を代入しても成り立つので恒等式と考える.

恒等式の定義

ある等式において,その変数にどのような値を代入しても, 常に等式が成り立つとき,その等式をそれらの文字についての恒等式(identity)という.

一般に,式の変形によって導かれる等式は,どれも恒等式である. たとえば, $(x − 1)(x − 3)$ を展開すると $x^2 − 4x + 3$ となるので,等式

\[(x-1)(x-3)=x^2-4x+3\]

は恒等式である.

恒等式〜その1〜

次の等式のうち,恒等式はどれか.

  1. $(x+3)(x+1)-5(x+1)$
    $\qquad\qquad\qquad=(x-2)(x+1)$
  2. $(x+y)(x-y)+x^2+2x=(x+y)^2$
  3. $\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{x+1}=\dfrac{1}{x(x+1)}$

  1. 左辺を展開すると

    (左辺)

    \begin{eqnarray} &=&x^2+4x+3-5x-5\\ &=&x^2-x-2\\ &=&(x-2)(x+1)= \end{eqnarray}

    (右辺)

    ゆえに,

    恒等式である.

  2. 両辺に, $x = 1,y = 0$ を代入すると

    ← $x = 1,y = 0$ はひとつの例である

    (左辺) $=(1+0)(1-0)$
    $\qquad\qquad+1^2+2\cdot 1=4$

    (右辺) $=(1+0)^2=1$

    左辺の値と右辺の値が異なるので

    恒等式ではない.

  3. 両辺に, $x = 1$ を代入すると

    ← $x = 1$ はひとつの例である

    (左辺) $=\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{1+1}=\dfrac{3}{2}$

    (右辺) $=\dfrac{1}{1(1+1)}=\dfrac{1}{2}$

    左辺の値と右辺の値が異なるので

    恒等式ではない.

    以上から,恒等式は

    1.

    である.