不等式の証明の基本

数学Ⅱにおける不等式の性質

FTEXT 数学Iで学んだように,2つの実数$a,b$の間には

\[a>b,~a=b,~a \lt b\]

のうち,いずれか1つの関係が成り立ち,特に不等式には次のような性質があった.

不等式の性質

  1. すべての実数 $c$ で $a \lt b$ \[\Leftrightarrow a+c \lt b+c, a-c \lt b-c\]
  2. $0 \lt c$ のとき $a \lt b$ \[\Leftrightarrow ac \lt bc, \frac{a}{c} \lt \frac{b}{c}\]
  3. $c \lt 0$ のとき$a \lt b$ \[\Leftrightarrow ac>bc, \frac{a}{c} \gt \frac{b}{c} \text{←逆向き!}\]

不等式の証明の基本について

不等式 $A > B$ を証明するには, $A$ がだんだん小さくなるように変形していって,それでもなお $B$ より大きいことを示せばよい. たとえば,$\sqrt{x^4+2x^2+2}>x^2+1$を示すには

\begin{eqnarray} \text{(左辺)}&=&\sqrt{x^4+2x^2+2}\\        &\gt&\sqrt{x^4+2x^2+1}       ← 根号の中の値が1だけ小さくなっている\\       &=&\sqrt{(x^2+1)^2}\\       &=&x^2+1=\text{(右辺)} \end{eqnarray}

とすればよい.

しかし,一般には $A > B$ と同値である $A − B > 0$ を示すことの方が簡単なことが多い. そのため,このテキストでも適宜 $A − B > 0$ を示す方法を利用する.

不等式の証明

不等式 $A > B$ を証明するには,それと同値の内容である, $A − B > 0$ を示せばよい.

なお $A>B\Rightarrow A\geqq{B}$ であるため, $A\geqq{B}$ を証明するには $A>B$ をいえば十分である.

不等式の証明-その1-

次の不等式を証明せよ.

  1. $a > 1,b > 1$ ならば,
    $\qquad ab + 1 > a + b$
  2. $a > c,b > d$ ならば,
    $\qquad ab + cd > ad + bc$

  1. (左辺) $-$ (右辺)を計算すると

    \begin{align} &ab+1-(a+b) \\ &=a(b-1)-(b-1) \\ &=(a-1)(b-1) \end{align}

    $a > 1,b > 1$ より,$a − 1 > 0,b − 1 > 0$ だから,$(a − 1)(b − 1) > 0$ が成り立つ.

    以上より, $ab + 1 > a + b$ が証明された.

  2. (左辺) $-$ (右辺)を計算すると

    \begin{align} & (ab+cd)-(ad+bc) \\ &=a(b-d)-c(b-d) \\ &=(a-c)(b-d) \end{align}

    $a > c,b > d$ より, $a − c > 0,b − d > 0$ だから, $(a − c)(b − d) > 0$ が成り立つ.

    以上より, $ab + cd > ad + bc$ が証明された.

平方による比較

$a > 0$ かつ $b > 0$ のとき, $a + b > 0$ で

\begin{align} a^2-b^2=(a+b)(a-b) \end{align}

であるから, $a – b$ の符号と $a^2 – b^2$ の符号は同じものになり次のことがいえる.

平方による比較

(注)

$a\geqq0$ かつ $b\geqq0$ のとき

\[a>b~\Longleftrightarrow~a^2>b^2\]

が成り立つ.

このことから,2つの数 $a,b$ がともに $0$ 以上のときには, $a > b$ が成り立つことを証明する代わりに, $a^2 > b^2$ が成り立つことを証明すればよいことがわかる. この論法は,次の例題でみるように,根号を含む不等式の変形の際に活躍する.

平方による比較

次の不等式を証明せよ.等号のあるものについては,等号が成り立つ場合を調べよ.

  1. $ a > 0$ かつ $b > 0$ のとき
    $\sqrt{a}+\sqrt{b}>\sqrt{a+b}$を証明せよ.
  2. $a\geqq0$ かつ $b\geqq0$ のとき,
    $3\sqrt{a}+2\sqrt{b}\geqq\sqrt{9a+4b}$ を証明せよ.

  1. $\sqrt{a}+\sqrt{b}~(>0)\geqq0,\sqrt{a+b}~(>0)\geqq0$ なので, (左辺)$^2 > $ (右辺)$^2$ を示せばよい.        $\blacktriangleleft$ 平方による比較

    (左辺)$^2 − $ (右辺)$^2$

    \begin{eqnarray} &=&a+2\sqrt{ab}+b-(a+b)\\ &=&2\sqrt{ab}>0 \end{eqnarray}

    よって,(左辺) $>$ (右辺)が証明された.

  2. $3\sqrt{a}+2\sqrt{b}\geqq0,\sqrt{9a+4b}\geqq0$ なので,

    (左辺) $^2\geqq$ (右辺) $^2$ を示せばよい.     $\blacktriangleleft$ 平方による比較

    (左辺) $^2 −$ (右辺) $^2$

    \begin{align} &=\left(3\sqrt{a}+2\sqrt{b}\ \right)^2-\left(\sqrt{9a+4b}\ \right)^2\\ &=9a+12\sqrt{ab}+4b-(9a+4b)\\ &=12\sqrt{ab}\geqq0 \end{align}

    (左辺) $\geqq$ (右辺)が証明された.

    特に,等号が成立するのは, $12\sqrt{ab}=0$ ,すなわち $a = 0$ または $b = 0$ のときである.

さきほども述べたように,不等式 $A\geqq B$ を証明する基本は,それと同値の内容の $A-B\geqq0$ を証明することである. ある値が $0$ 以上になることをいうには,一般にはいろいろな方法があるが, 次の節から扱う有名な不等式を利用することが多い.