基本的な数学的帰納法

等式の数学的帰納法

等式の数学的帰納法

ここでは,数学的帰納法を利用して等式を証明する.

基本的な数学的帰納法~その1~

すべての自然数 $n$ において

\[\sum_{k=1}^nk(k+1)=\frac{1}{3}n(n+1)(n+2)\tag{1}\label{tosikinokinoho1}\]

を証明せよ

  1. $n=1$ のとき
  2. \begin{align} (左辺)&=\sum_{k=1}^1k(k+1)=1\cdot2=2\\ (右辺)&=\frac{1}{3}\cdot1\cdot2\cdot3=2 \end{align}

    ととなるので,確かに $\eqref{tosikinokinoho1}$ は成り立つ.

  3. $n=m$ のとき( $m$ はある自然数とする) $\eqref{tosikinokinoho1}$ が成り立つと仮定する,つまり
  4. \begin{align} &\sum_{k=1}^mk(k+1)\\ =&\frac{1}{3}m(m+1)(m+2)\tag{2}\label{tosikinokinoho2} \end{align}

    を仮定する.

    このとき, $\eqref{tosikinokinoho1}$ で $n=m+1$ とおいた等式

    \begin{align} &\sum_{k=1}^{m+1}k(k+1)\\ =&\frac{1}{3}(m+1)(m+2)(m+3)\tag{3}\label{tosikinokinoho3} \end{align}

    が成り立つのを以下に示す.

    仮定 $\eqref{tosikinokinoho2}$ を使えるような形にするため $\displaystyle\sum_{k=1}^mk(k+1)$ をくくり出す

    \begin{align} &(\eqref{tosikinokinoho3}の左辺)\\ =&\sum_{k=1}^{m+1}k(k+1)\\ =&1\cdot2+2\cdot3+3\cdot4+\cdots\\ &\quad+m(m+1)+(m+1)(m+2)\\ =&\sum_{k=1}^mk(k+1)+(m+1)(m+2)\\ =&\frac{1}{3}m(m+1)(m+2)+(m+1)(m+2)~\because{\eqref{tosikinokinoho2}}\\ =&(m+1)(m+2)\left(\frac{1}{3}m+1\right)\\ &\uparrow共通因数(m+1)(m+2)でくくった\\ =&(m+1)(m+2)\frac{m+3}{3}\\ =&\frac{1}{3}(m+1)(m+2)(m+3)\\ =&(\eqref{tosikinokinoho3}の右辺) \end{align}

    よって, $n=m$ のとき $\eqref{tosikinokinoho1}$ が成り立つと仮定すれば, $n=m+1$ の場合も $\eqref{tosikinokinoho1}$ が成り立つことがいえた.

1. 2. によって,数学的帰納法からすべての自然数 $n$ について, $\eqref{tosikinokinoho1}$ は成り立つ.

不等式の数学的帰納法

不等式の数学的帰納法

ここでは,数学的帰納法を利用して不等式を証明する.

基本的な数学的帰納法~その2~

すべての自然数 $n$ において

\[3^n\gt n+1\tag{1}\label{hutosikinokinoho1}\]

が成り立つことを証明せよ.

  1. $n=1$ のとき
  2. \begin{align} (左辺)&=3^1=3\\ (右辺)&=1+1=2 \end{align}

    となるので,確かに $\eqref{hutosikinokinoho1}$ は成り立つ.

  3. $n=m$ のとき( $m$ はある自然数とする) $\eqref{hutosikinokinoho1}$ が成り立つと仮定する,つまり
  4. \[3^m\gt m+1\tag{2}\label{hutosikinokinoho2}\]

    を仮定する.

    このとき, $\eqref{hutosikinokinoho1}$ で $n=m+1$ とおいた等式

    \[3^{m+1}\gt m+2\tag{3}\label{hutosikinokinoho3}\]

    が成り立つのを以下に示す.

    仮定 $\eqref{hutosikinokinoho2}$ を使えるような形にするため $3^m$ をくくり出す

    \begin{align} &(\eqref{hutosikinokinoho3}の左辺)\\ =\ &3^{m+1}\\ =\ &3\cdot3^m\\ \gt\ &3\cdot(m+1)\qquad\qquad\because{\eqref{hutosikinokinoho2}}\\ =\ &3m+3\\ =\ &m+2+(2m+1)\\ \gt\ &m+2\qquad\qquad\qquad\because{2m+1\gt0}\\ =\ &(\eqref{hutosikinokinoho3}の右辺) \end{align}

    $\blacktriangleleft$ 正の数 $(2m+1)$ をなくせば,全体として小さくなる

    よって, $n=m$ のとき $\eqref{hutosikinokinoho1}$ が成り立つと仮定すれば, $n=m+1$ の場合も $\eqref{hutosikinokinoho1}$ が成り立つことがいえた.

1. 2. によって,数学的帰納法からすべての自然数 $n$ について, $\eqref{hutosikinokinoho1}$ は成り立つ.

一般の命題の数学的帰納法

一般の命題の数学的帰納法

一般の命題の場合でも,その命題を等式で表してやれば,等式の数学的帰納法と同様になる.

基本的な数学的帰納法~その3~

2以上の自然数 $n$ において

$p$ の整式 $p^n+(1-p)n-1$ は $(1-p)^2$ で割りきれる $\tag{1}\label{meidainokinoho1}$

ことを証明せよ.

  1. $n=1$ のとき
  2. \begin{align} &p^2+(1-p)\cdot2-1\\ =\ &p^2-2p+1\\ =\ &(1-p)^2 \end{align}

    となるので,確かに $\eqref{meidainokinoho1}$ は成り立つ.

  3. $n=m$ のとき( $m$ はある自然数とする) $\eqref{meidainokinoho1}$ が成り立つと仮定する,つまり
  4. \begin{align} &p^m+(1-p)m-1\\ &\qquad\qquad=(1-p)^2Q(p)\tag{2}\label{meidainokinoho2} \end{align}

    を満たす $p$ の整式 $Q(p)$ が存在すると仮定する.

    $\blacktriangleleft$ 一般に,「整式 $f(x)$ が $(1-p)^2$ で割りきれる」とは $f(x)=(1-p)^2Q(x)$ となるような整式 $Q(x)$ が存在することである

    このとき, $\eqref{meidainokinoho1}$ で $n=m+1$ とおいた等式

    \begin{align} &p^{m+1}+(1-p)(m+1)-1\\ &\qquad\qquad\qquad=(1-p)^2R(p)\tag{3}\label{meidainokinoho3} \end{align}

    を満たす $p$ の整式 $R(p)$ が存在することを以下に示す.

    仮定 $\eqref{meidainokinoho2}$ を使えるような形をうまくつくる

    \begin{align} &(\eqref{meidainokinoho3}の左辺)\\ =&p\cdot p^m+m+1-pm-p-1\\ =&p\cdot p^m+m-pm-p\\ =&p\{\underbrace{p^m+(1-p)m-1}_{\eqref{meidainokinoho2}の左辺を強引につくる}\}\underbrace{-p\{(1-p)m-1\}}_{ずれた分のつじつま合わせ}\\ &\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad+m-pm-p\\ =&p(1-p)^2Q(p)-mp(1-p)\\ &\qquad+p+m-pm-p\quad\because{\eqref{meidainokinoho2}}\\ =&p(1-p)^2Q(p)-pm+mp^2+m-pm\\ =&p(1-p)^2Q(p)+m(p^2-2p+1)\\ =&p(1-p)^2Q(p)+m(1-p)^2\\ =&(1-p)^2(pQ(p)+m)\\ &\uparrow共通因数(1-p)^2でくくった \end{align}

    $Q(p)$ は整数だから $pQ(p)+m$ も整式となり,これを $R(p)$ とおくと

    \begin{align} &(\eqref{meidainokinoho3}の左辺)\\ =&(1-p)^2R(p)\\ =&(\eqref{meidainokinoho3}の右辺)\\ \end{align}

    よって, $n=m$ のとき $\eqref{meidainokinoho1}$ が成り立つと仮定すれば, $n=m+1$ の場合も $\eqref{meidainokinoho1}$ が成り立つことがいえた.

1. 2. によって,数学的帰納法からすべての自然数 $n$ について, $\eqref{meidainokinoho1}$ は成り立つ.